AV監督・二村ヒトシ「自分が感動した物語は何かを考えるところから始めよう」

アダルトビデオ監督の二村ヒトシさん
最近では「恋とセックスで幸せになる秘密」(恋セク、イーストプレス刊)がヒットとなり、恋愛や性愛に悩める女性たちのカリスマ的な存在になりつつあります。

一方で、ご自身は、かつてオタクだったのです。
クリエイターと読者をつなぐサイト「cakes」では、「キモイ男、ウザい女」を連載しています。

すべての男はキモい。
それが二村さんの見立てであり、かつての著書「すべてはモテるためである」(すべモテ、イーストプレスで復刊)では、男がモテないのは「キモチワルイから」と書いていました。
そんな二村さんに、脱童貞のことを聞いてみました。

童貞を脱するだけならソープへ行けばいい。しかし....

–「メンズファッションプラス」サイトについてどう思いますか?

お母ちゃんが買って来た白ブリーフを履くのをやめて、サイトでコーディネートされたファッションを買おうよってことでしょ?

それ自体はいい気がします。
ファッションに目覚めるとか言っても最初から自己流は止めといたほうがいい。
僕は童貞のときはダサいアーミーシャツにサングラスをかけていた。ダメですよね。
30年くらい前のオタクです。あれ、どこで買ったのかな。デパートか近所の洋品店かな?

そのころはジーンズメイトはあったけど、ユニクロとかないですから。
いいことか悪いことかわからないけど、世の中、小綺麗なほうに均質化していきますよね。でも、いいんじゃないですか。

–童貞を脱するにはどうすればいいですか?

その人はセックスがしたいの?恋愛がしたいの?それって「人並み」になりたいってことですか?
まず「自分は、どうしたいのか」を見極めてください。

僕はセックスがしてみたかったので、ソープへ行きました。18歳でした。
変なサングラスをかけていたころです。女の子が身近なところにいなかったからです。

素人童貞喪失は19歳。近所の、アメリカから帰って来たばかりの幼なじみが相手です。
彼女は22歳くらいでした。英語を教えてくれたんです。
僕、大学でぜんぜん勉強できなかったので、母が「ヒトシはバカだから英語を教えてあげて」と頼み込んで、家庭教師をしてくれることになったんです。

夏だったんですが、彼女はデニムの短パンを履いて、足にはペディキュアをしていた。
今では珍しくないけど、当時は日本の素人女性は、ペディキュアをしていなかった。
部屋で二人きりになったから、その足の指を舐めたんです。
「初めてなんて、嘘!」と言われました。AVみたいでしょ。ホントかよ?って思われると思うけど、ホントなんです。

–どうして、ペディキュアに反応したんですか?

僕がエロ漫画を読んでいたからですかね…。
子どものころから、エッチな絵ばかり描いてるような子どもだった。

–いきなり足の指って流れは、童貞には難しくないですか?

そうですね。僕はとにかく運が良かったんですね。
僕があまりにもエロ漫画のようにコトを進めるから、彼女もノッてくれたんですかね。

その前にソープには行っていましたが、エロ漫画を読んでいたために「自分はセックスができる人間だ」と思い込んでいたんです。
本当に運がよかったとは思う。相手が処女だったら、お母ちゃんにぶたれて終わりじゃないですか。
いや、ほんとにマネはしないほうがいいと思いますよ。最悪、警察を呼ばれますよ。

–彼女はなんでOKしたのか?

なんでなんでしょうね? たしかに不思議です。
アメリカではボーイフレンドが大勢いたんでしょうけど、日本に帰ってきて、ちょっと寂しかったのかな? 
僕のことが嫌じゃなかったんでしょうね。くそオタクだったんですけどね。

そのとき自分がどんなファッションだったかは忘れましたが、大学には相当ダサい格好をして通っていましたよ。
慶應の内部進学とは思えないダサさ。周囲には芸能人の息子とかだらけだったんですが。

モテているヤツは小学生のころからセックスしていました。でも僕はオタクで...

–そのころは「モテる」とか「モテない」とか考えてた?

考えていましたよ。モテているヤツは小学生のころからセックスしていました。
僕らオタク組は、その恩恵をぜんぜん享受できなかった。
女の子たちは我々とは遊んでくれないです。完全にヒエラルキーが違うもの。

–何オタクだったんですか?

ファースト・ガンダム直撃世代でしょ。
僕はアムロと同じ年ですから、ってわけのわからない自慢をするわけですが。
いまの若者がよく「エバンゲリオンのシンジくんと同じ年」と言ってるじゃないですか。

–どうやってモテるかは考えていた?

考えてないです。どうやってセックスするか、だけを考えていた。
中学くらいから、モテるヤツらを近くで見ていて、僕とは人種が違うと思っていたんです。
その一方で、妄想のなかでは、自分はエロいセックスができる男だと思っていたんです。

そのころのモテのイメージは、日吉から学校帰りに自由が丘で降りるってことですかね。
放課後、学校の近くじゃなくて自由が丘の喫茶店でお茶できる慶應の男子高校生は、セックスできるんですよ。
モテて実際にセックスをしていた男達は、同じクラスにたくさんいた。

小学生のころから筒井康隆の小説や、山上たつひこの大人向けの漫画を読んでいるんです。
変態的な性の知識は、実際にやってるモテる男たちよりも僕の方が遥かに詳しいんですよ。
女の子だと、少女漫画を読んでいる子のほうが実際に恋愛をしている人よりも恋愛に詳しいってことはあるのかな? 
少女漫画を読んでいる子でリア充って子もいるとは思うけど。

モテるってことと性欲の強さの関係は、どうなんだろう。
僕は間違いなく、子どものころから性欲が強かった。
同じように慶應の内部進学でも、スポーツができるかできないかでモテの要素が変わるわけですよ。
スポーツができる男は、性欲が強いわけではないが、身体性というのがあって。俺たちオタクは、性欲が強くてもモテない。

–性欲がないとモテないという声もあるが

でも、いまは草食系男子は肉食系女子にモテているんじゃないですか。女子全体にモテているのか。

–肉食系男子が好きとなると、女性がギラギラしていると思われる。性欲を弱く見せられる。

ガツガツしてないようにってことかな。

–当時のモテるイメージは性欲のイメージ?

いやいや。モテる男はカッコいいイメージ。バンドとかやっている男たち。
僕らみたいなオタクは、漫画の中の登場人物やエロ本の写真で「女」というものを知っている。
けど、現実の「女」は知らない。話したこともない。中高が男子校だと、オタクは完全に女子と話さない。

中学の頃からガンダムと未来少年コナン。そこでガンダムの富野とジブリの宮崎駿とが出そろっていた

–男子校を選んだ?

母親が医者だったんです。父親は読売新聞の記者なんだけど離婚して。
慶應病院関係の医者が、自分の子どもを一番かんたんに医者にする方法が、なるべく下から慶應の付属に入れることなんですけどね。

母親は医者にさせたかったんだろうけど、おかげさまでAV監督…(笑)。
中学のときから完全に勉強を放棄してたから、医学部は無理でした。

–とすると、勉強もできないし、モテない。オタクにいくしかにない?

中学の頃からガンダムと未来少年コナン。
そこでガンダムの富野とジブリの宮崎駿とが出そろっている。
親はビデオデッキを買い与える。当時、何十万もした。そしたら全話、録画するよね。

–恋愛をしたいと思ったのは?

彼女がほしいと思ったのは…。
セックスしたから、この子と付き合いたいというよりは、友だちになった女の子でいいなと思って、
うまくやればセックスできるんだと思ったのは、大学で童貞を失った後。2~3年。

–慶應だと三田校舎にくると違うと言われますよね?

文学部だったら2年生以上、経済学部だったら3年になると三田校舎になる。
一般教養じゃなく、専門に行くということ。それによって遊び場が変わる。
自由が丘だったのが、六本木に行くようになる。まわりの女子大生も垢抜けて、華やかになる。

しかし、僕は演劇研究会だったわけ。稽古場は日吉にある。
だから僕は2年になっても3年生になっても落第しても日吉に通っていたんです。
それでも文化系女子とは、大学の中でもセックスできちゃってた。
オタクの中ではモテていた方なじゃないかな。十分、キモかったんだけど、なんでだろう?

いきなり隣のお姉さんとセックスをして、いきなりセックス先行で付き合いが始まって、うちに英語を教えにくるという名目で、僕の部屋に来たらセックスをするんです。
外でデートは、あんまりしなかったなあ。

–設定がAVですね。いいじゃないですか!

そのころ、別の大学の大学院に通っていた現在の妻と出会うんです。
僕が3年のとき。夏休みの大学合同の勉強会みたいなので。

僕に近寄ってくる女性には、僕はモテている

–リア充の友だちをどう思っていたんですか?

中学のときから横目で見ていたリア充の人たちにルサンチマンを持っていたが、同じ土俵で勝とうとは思っていなかった。
人種が違うし、オタクである自分が好きだった。モテてる人に、モテで競争をしても勝てない。

–「モテる」は捨てていた?

いや、「すべてはモテるためである」という言葉は本当だと思っているんです。
僕に興味を持ってくれる女を探そうということなんです。だって、僕に近寄ってくる女性には、僕はモテているんだもん。
ただ、僕は非常に運が良く、うまくいったんだと思うんですよ。

–近寄ってくる女性に自分好みがいたということですか?

いや、僕は「僕に興味を持ってくれる女性」が好きなんです。
自分に近寄ってきてくれる異性は気に食わないっていうのは、つまり自己肯定していないってことでしょ、そもそも論でいえばね。
ただ、僕の本に則して言えば、当時の僕は「インチキ自己肯定」してたんだと思いますよ。

「あなたは、自分が感動した物語は何ですか?」というところから始めよう

–脱童貞を目指す男たちへ

自分がまず何が好きかを考えよう。
自分が何者かを考えろってことです。それは「自分探しへの努力」ではない。
「自分探しをする」ことあるいは、いま流行は「自分探しには意味がない」という言説。僕は両方、意味が分からない。

「あなたは、自分が感動した物語は何ですか?」というところから始めようということ。
流行になった「自分探し」って、流されていない自分で選んだ環境に身を置いて、自分が何ができるのかを探すってこと、自分が人から必要とされているかどうかを知るということ、なんじゃないか。

「自分が向いているのは何かを他人に聞いてみよう」と思って、会社に入れば悩まないのだろうけど、
「会社に入れば、なにか文化的なことができるのではないか」と思っていると、現実の会社では悩むことになる。
処理能力のなさにパニックになってしまう。童貞の話と関係がないと思われがちだけど、観念に走っている。
でも、20歳のころの自分のほうが観念に走っている。
リア充に対して、僻まなかった。そっちの自分のほうがよほど現実的だった。

無難な服を着るということは、リア充に近づけること、充実まではいかないかもしれないけど、普通に恋愛やセックスができることだとすれば、その時点でパニックになっている。
僕はそこに頑張らなかったんだよな。

–頑張らないほうがいい?

僕は「セックスをする」ことには頑張った。
ソープへ行き、隣のお姉ちゃんが家庭教師としてやってきた。そこで押し倒されたのであれば、僕は運がいい。
しかし、僕が足の指を舐めたわけ。努力ではないが、自ら行動をした。

目的が「脱童貞」ならば、お金を貯めてソープへ行けば一番いい。
しかし有名な作家が言ったように「ソープへ行って初体験を済ませれば、すべての悩みが解決する」とは思わない。
むしろ、すべてはそこから始まる。

ソープへ行っても「自分が何者なのか」は、わからない。でもセックスはできる。
女性にはそういう場所はないのだから、考えてみれば男性は恵まれている。
性病の可能性以外、ソープにはリスクはない。あ、ぼったくり店はあるか…。

–偽装恋愛に対する幻滅もあるかも

それは現実の話で、自分が何をしたいのかが整理できていない。
セックスがしたいのならソープへ行くべきです。
恋愛をしたいのならソープへ行くべきではない。ソープへ行ってもモテるようにはならない。

あなたはどっちがしたいのか。
セックスがしたいのか? 恋愛がしたいのか? 彼女がほしいのか? 

恋をすることと、彼女ができることもまったく別のことだからね。
やっぱり、モテることで人並みの男になりたいのかな。
自分がコミュニケーションできる女性と知り合いたいのでしょ?

–どうすればいい?

ファッションはこのサイトで(笑)。
で、僕の本(「すべモテ」「恋セク」)を読んでください。

出会いの場を求めるなら、たとえば大規模の読書会に行けばいい。
本を読んで、自分を主張しすぎるのではなく、他者の意見に素直に耳を傾けて、それで「自分が何者なの」かを客観的に知ることです。

セックスできる人生を選びたいのなら、女性と仲良くすることから。
読書会のいいところは、大人数の合コンみたいなものだけど、目的が出会いではないので、ガツガツしないで済む。
同じ本を読んで、異性を含めた複数の人たちと話す。相手の話を聞かなければいけない。
自分の話ばかり話すのではなく、むしろ相手の話を聞くことですね。「謙虚なオタクになる」ことを推奨したい。

編集後記

私と二村さんとの出会いは、歌舞伎町の酒場でした。
そして恋愛本を書くというので、いろんな話をするようになったのです。
ときには、キャバクラへ行き、その帰りに反省会を開いていました。
また、ある時期は、夕方になると、新宿ゴールデン街に集合し、朝まで飲んで語り明かしました。

二村さんの強みは、アダルトビデオに出演する女性たちを見て来たことがあります。
また、その一方で、自身がモテなかった経験があることです。

だからこそ、モテについて説得力があるのです。ソープへ行けば童貞を捨てられる。
しかし、それだけでいいの?とも問うことも必要とも言っています。
自分を知り、好きになること。モテを考える前に、自己肯定をしよう。
それが、二村さんの「モテ」論の出発なのです。

編集:渋井哲也

※編集部注:この記事は、2013年にインタビューされたものです。

二村ヒトシさんプロフィール

二村ヒトシさんTwitter
https://twitter.com/nimurahitoshi

「cakes」連載「キモい男、ウザい女」
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